諸々の法は影と像の如し
 蘆屋家は先代のときに、都を追放になった。
 だが元々術師として秀でていたので、追放先の播磨で功績を上げ、子である道仙らは帰京も許されている。

 道仙の兄は、特に京に執着はないらしく、播磨を拠点に乞われたときだけ京へ上る生活だが、道仙は洛外に居を構えた。
 道仙には一族を追放に追いやった貴族への恨みがあるのだ。

 闇に動じない惟道に、少し安心したのか、女房はとりあえず気を取り直した。
 杯を受け取ると、惟道がそこに銚子の中身を注ぐ。
 薄紅色の液体が杯に入った。

「これは?」

 この不思議な色は、灯の光のせいだろうか、と聞いてみると、

「この部屋は冷えます故」

 答えでない答えを返し、惟道は薄く笑った。
 とにかく一人ではない、ということに安心し、女房は杯に口を付けた。

「……?」

 鉄のような舌を刺す味に一瞬顔をしかめたが、その不快感はすぐにその後の甘く爽やかな喉越しに拭い去られる。
 色も不思議だが、味も不思議だ。

 女房が何か言う前に、惟道は再度銚子を傾けて杯を満たした。
 何となく頭に靄がかかったようで、いろいろ聞きたいことはあるのに、言葉にならない。
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