諸々の法は影と像の如し
 夜もとっぷりと更けた子の刻頃、納屋のような離れに、ゆらりと灯が入った。

「女房の始末はついたか」

 単姿の道仙が、前に伏した惟道に言う。
 小さく、惟道が顎を引いた。

「明日にでも、死体を姫に拝ませよう。奴を足掛かりに、宮中の奴らを皆殺しだ」

 楽しそうに笑い、道仙は伏したままの惟道に扇を向けた。

「やっとお前も蘆屋家の役に立てるのだ」

 冷やかな目で言う。
 その目には、兄弟に向けるものではない、明らかな蔑みの色があった。

 惟道は特に何も言わず伏したままだったが、道仙が、ぱしっと扇を鳴らしたのを合図に、静かに脇に避けた。
 道仙が立ち上がり、部屋を出て行く。

「きちんと始末がついたかどうか、確かめておけよ」

 部屋から出しな、足元の惟道に命じ、道仙は足早に去って行った。
 その後ろ姿を見送り、ちらりと西の対に視線を移した惟道は、やがてゆっくりと立ち上がった。
 燭台から手燭に火を移し、静かに部屋を出て行く。

 元々この家には年老いた下働きの爺がいるだけ。
 屋敷は広いが、住んでいるのは道仙と惟道と、この爺だけだ。

 辺りに屋敷があるわけでもない。
 しん、と静まり返った屋敷の中を、惟道は女房を案内した部屋へと向かった。
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