諸々の法は影と像の如し
 とはいえ、龍神の名など簡単ではない。
 元の名があるなら、それを調べて考えたほうがいいかも、と思うのだが、龍神の名など何を調べればいいのだろう。

 守道が帰った後、章親は書庫に向かった。
 安倍家には陰陽道の大家らしく、様々な書物を納めた大きな書庫があるのだ。

---陰陽師が御魂様を召喚するのは今や決まりだから、御魂様に関する書物もあるはずだよね。いや待てよ。龍神様なんて御魂が降りたことなんてあるのかな---

 そもそも陰陽寮でさえ、御魂の姿を見ることなどない。
 通常業務に御魂を使うことなどないし、宮中で行われる大事な儀式には、章親のような若輩者はまだ参加出来ない。

 悪霊祓いなどの大捕り物には章親など役に立たないし、そんなもの怖くて参加もしたくない。
 考えてみれば、他の者の御魂を見たのは、守道の御魂が初めてかもしれない。

---お狐様だったな。御魂って、ああいう系なのかな。だとしたら、猫又とか狗神とかを御魂として持ってる人もいるのかな。え、もしかして御魂って、妖怪の類? 百鬼夜行とかの中から降りてたりして!---

 思考はどんどん恐ろしい方向に向かう。
 顔を上げれば、そこは薄暗い書庫だ。
 外は爽やかな風が吹いていたというのに、ここの暗さは何なのだろう。
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