諸々の法は影と像の如し
「……」

 章親は、手に持った何冊かの巻物を抱き締めると、戸に身体を向けた。
 あんまり他に神経を集中しないよう意識しながら、そろそろと移動する。

 その時、キン、と妙な気を感じ、反射的に顔を上げた。
 戸に向かっていた足が止まる。

---何だろう、この感じ---

 妙、というのはあまりよろしくないだろうに、気になってしょうがない。
 関わりたくない、と思う反面、放置しておいていいものか迷う。

 そろ、と章親は首を巡らせて、書庫の奥を見た。
 一点、闇が濃いところがある。

 見るからにヤバそうなのに、章親はその闇に近付いた。
 呪を唱えるのも、印を結ぶことも頭になかった。

 額からは冷たい汗が一筋流れているのに、引き寄せられるように、章親は闇の中を覗き込んだ。

「……何だろう、これ」
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