諸々の法は影と像の如し
「章親っ!」

 叫び声と共に、しゃらん! と綺麗な音がした。
 同時に章親の上のモノが吹き飛ばされる。

 仰向けに転がったまま見開いた章親の目に、息を切らせた御魂が映った。
 御魂は突き出した錫杖を振り被ると、奥の壁際まで吹っ飛んでいたモノに振り下ろす。

「き……きしゃぁっ!」

 毛玉のようなモノは、ぽん! と跳ねて御魂の錫杖を避けると、そのまま章親と御魂の上を飛び越えて、書庫から逃げて行った。

「……」

 一瞬御魂は後を追おうとしたが、すぐに諦め、章親を見下ろす。
 そしていまだ転がったままの章親を助け起こした。

「あ、ありがとう」

 御魂に手を引かれ、書庫を出た途端、周りの空気が変わったようだ。
 さっと風が吹き抜ける。
 何かどっと疲れ、章親はよろよろと渡殿にへたり込んだ。

「何じゃ、あれは。猫のようにも見えなんだが」

 御魂も、ふぅ、と息をついて、妙なモノの去ったほうを見る。

「さぁ……。あの、御魂様。何で来てくれたの?」

 御魂のことは呼んだが、楓と違って空間を飛び越えて現れることは出来なかったはずだし、何より章親の声が聞こえたわけでもあるまい。
 まだ契約をしていないのだから、章親とは何の繋がりもないのだ。
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