諸々の法は影と像の如し
 少し乱れた髪を掻き上げ、御魂は欄干に寄りかかり、素っ気なく言った。

「式が飛んで行ったからの。奴の軌道を追ってきた。とはいえお主に呼ばれた式は空間を飛ぶからの。容易ではなかったが」

 結構探し回ったのだろう。
 式は疲れを感じることはないが、御魂は普通の人のように、急ぐと息が上がるようだ。
 また、ふぅ、と息をつく。

「うん……ごめんね」

 しょぼん、と章親は項垂れた。
 契約しておけば、呼べば式と同じように一瞬で章親の元に飛んでくることが出来るのだ。
 御魂をこのように、無駄に疲れさすこともない。

 でも、と章親は、それ以上何も言わずに口を噤んだ。

「そんなに我が嫌か」

 ややあってから、御魂が静かに言った。
 どうあっても契約しない章親の頑固さに、いい加減愛想が尽きたようだ。
 ちょっと、章親が顔を上げた。

「御魂様は、僕が嫌じゃないの?」

 む、と御魂が口を曲げる。
 何か言おうとしたようだが、すぐに、ぷいっと顔を背けた。

「仕方なかろう!」

 吐き捨てるように言う。

「一旦降りてしまったものは、取り消しは利かぬ。たとえ主が、どんなに情けなくともな」

「だから、出来るだけ御魂様の希望を聞こうと思って」

 言いつつ、章親は膝を叩きながら腰を上げた。
 散らばった巻物を抱えて立ち上がる。

「おい章親。どういうことじゃ」

 言い募る御魂に背を向けると、章親はそのまま部屋に戻って行った。
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