諸々の法は影と像の如し
第五章
「えらい雨だなぁ」

 安倍家の一室で、守道が空を見上げた。
 ここ五日ほど、雨が降り続いている。

「もうすぐ宮様の賀茂社参拝だってのに、大丈夫かな」

 心配そうに言う守道は、部屋の隅で巻物を広げている章親を見やった。

「どうしたんだよ。ここのところ、ずっと陰陽寮でも書庫に籠って。何か調べものか?」

「龍神の名を調べてるんだ」

 巻物に目を落としたまま言う章親に、守道は怪訝な顔をした。

「そんなもの、御魂に聞けばいいだろ」

「駄目だよ。自分で調べないと」

「何でだよ。変わらないぞ。それに名なんて、参考程度だろ? すぐに新たな名になるんだから」

「そうだとしてもだよ」

 頑として譲らない章親に、守道は少し身を寄せた。

「教えてやろうか?」

「駄目だよっ!」

 いきなり章親が叫び、その剣幕に、守道は驚いて目を見開いた。

「御魂様に関することは、僕が自分で見つけないと駄目なんだ。守道、黙っておいて」

「……何なんだよ。無駄な時間じゃね?」

「でも龍神を調べることで、御魂様に関する知識も得られるよ。知っておけば、御魂様も何が苦手で何が好きかとかもわかるし」

 にこ、と言うが、守道は渋い顔をした。

「それこそ必要か? 主はお前だろ。何ご機嫌取るようなことしてるんだ」
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