諸々の法は影と像の如し
「そうかもしれない。だからね、僕も、御魂様の期待に応えようって思うんだ。楽な道を選ばず、自分の力で御魂様の名を呼ぶ。御魂様のことも、もっと勉強するんだ」

 きっぱりと言う。
 言い切った後で、少し照れ臭そうに、章親ははにかんだ。

「ま、まぁ僕の意地もあるんだけどね。絶対自力で御魂様に相応しい名を探してやるって思ってね」

「……お前は、こうと決めたら結構頑固だよなぁ」

 息をついて、守道は、ぽん、と章親の背を叩いた。
 そして、きょろ、と部屋の中を見回す。

「でも、今まで以上に御魂との仲は険悪じゃないか」

 ここは章親の部屋ではない。
 御魂は相変わらず章親の部屋の奥でふて腐れている。
 以前よりも随分空気が悪いので、章親は最近もっぱら別の部屋にいるのだ。

「章親の、その涙ぐましい努力も、御魂には通じず、か」

 揶揄するように言う守道は、複雑な気持ちだ。
 章親の能力は、目に見えないだけに理解されにくい。
 その辺の人間でさえ、章親と接すると『何か気持ちいい』と感じるのに、それが何故かわからないのだ。

 これほどの高い能力を、地味であるが故に理解されないのは、章親の能力を知る者からすると、歯痒くて仕方ない。
 守道からすると、この力に気付かない陰陽寮の奴らのほうが、よっぽど無能と思えるのだ。

「章親。明日の賀茂社の下見には、御魂と一緒に参加しろよ」

 御魂との仲さえ良ければ、御魂の言う通り二人の力の均衡も取れて、良い感じになるはずだ。

「契約しなくても、あの御魂の主はお前なんだからな」

「うん。わかってるよ」

 とは言うものの、はたしてあの御魂の機嫌は直るだろうか。
 ここ数日の雨も、もしかすると御魂のせいではないかと章親は思っている。

 あの御魂は龍神だ。
 水を操る力があるはず。

---だったら当日は、雨を止ませて貰うことも出来るかもなんだけど。でもそんなこと、御魂様が聞いてくれるとも思えないし---

 ひっそりとため息をつきつつ、章親は広げた巻物に目を落とした。
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