諸々の法は影と像の如し
 案の定、次の日も雨だった。
 が、ほぼ霧雨である。
 章親は父の吉平と共に、糺の森を歩いていた。

「当日は我ら陰陽師は、この森を中心に見よう。森全体に結界を張るのは大層だから、そうだな……。参道だけにするか」

「でも父上。参道全体に結界を張るのも大変ですよ。それを維持するだけでも、二人ではちょっと」

「うむ……。お付きの者として、常にお傍に付ける者がいるのが一番なんだが。そう考えると、お前の御魂に巫女になって貰うのが一番なのだが」

 吉平はそう言って、ちらりと章親を見た。
 結局今日も御魂はふて腐れて部屋から出て来なかった。

「そうですねぇ。でも……御魂様が承知しないような気がします」

 何で主でもない者を守る必要があるのか、とか言われそうだ。
 それも章親が命じれば、やらざるを得ないのだが、嫌々なのを無理やりさせるのも可哀想だ。
 しかも今は、まだ章親の言葉に絶対の権力はない。

「だがあの御魂の巫女姿など、相当神々しくなろうな」

 吉平の軽口に、章親は少し考えた。
 確かに外見だけならそうかもしれないが……。

「相当乱暴者ですよ。綺麗だからこそ、おっかないです」

「それもそうか。ははは、世の中非の打ち所のない者などいないということかの」

 はたして人でない御魂を『世の中』の括りに入れていいものか。
 そんな他愛もない話をしながら糺の森を歩いていた章親は、ふと書庫の中にあった古い箱のことを思い出した。
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