諸々の法は影と像の如し
「ち、父上っ!」

 章親が青くなって、吉平の袖を掴む。
 章親は攻撃系の術は、からきしなのだ。
 こういう場面になると御魂を呼びたくなるものだが、生憎章親の意地によって、呼んだだけでは来てくれない。

---でもやっぱり名も付けないのに、こういうときだけ甘えるってのも違うよな---

 妙なところで律儀なのである。
 抜けそうになる腰を必死で支えながら、章親は吉平に、あの毛玉について聞こうとした。
 モノが何かわかれば、対応も出来るかもしれない。

「父上。あの、ああいう感じがしたんです。書庫の奥が、何となく暗くて。行きたくないのに吸い寄せられるっていうか。呼ばれてる感じで、箱の前に立ってたんです」

「なら、あれがそうなのか?」

 茂みを睨みながら、吉平が言う。

「姿は見なかったのか?」

「えっと……。何か毛玉みたいでした。でも牙があって……」

 説明しながら、章親は前の茂みを見た。
 一角だけ気になるというのは、ことさら不気味だ。

「害為すものか……。封じられていたのなら、そうだろうな」

 吉平が言った途端、茂みが揺れた。
 中から何かが飛び出してくる。

「破っ!」

 何かが章親に飛び掛かる直前、吉平が呪を放った。
 鋭い気の塊が、茂みから飛び出してきたモノに直撃する。

 ぎゃう! と悲鳴を上げて、それは地に落ちた。
 が、すぐに体勢を立て直す。
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