諸々の法は影と像の如し
「こ、これは……」

 吉平が、印を結んだ手を構えたまま、少し先のモノを見た。
 見た目はまるで毛玉だ。

 あまりの衝撃に固まっていた章親は、しばし恐怖で脳みそが停止していたが、ふと、あれ、と思った。
 この毛玉に、何か感じるような。

---何だろう。何か、嫌な感じじゃないような。懐かしい……? いやいや、でもこんな毛玉、記憶の中にはないよ?---

 まじまじ見てみても、やはり毛玉に見覚えはない。

---それに、こんな恐ろしい毛玉、過去に会ってたら絶対覚えてるよ。何かいろいろ強烈だし---

 うん、と一人で納得する。

「父上。滅せそうですか?」

「う~ん……。まだ何かわからんし、わからないまま滅してしまうのは如何なものかと思うのだが……」

 相変わらず毛玉を睨んだまま、吉平が言う。
 もしかすると悪いモノではないのかもしれないのだ。

 攻撃を仕掛けてきたのも、ただ驚いただけということもある。
 陰陽師たるもの、物の怪であっても不必要に滅するべきではないのだ。

「だが今は急を要する。このまま捨て置いて、万が一宮様に害が及ぶと取り返しがつかんからな」

 そう言い、吉平は低く呪を唱え始めた。
 毛玉が、気付いたように、びく、と反応する。
 それを見た章親は、咄嗟に吉平の袖を引いた。

「ち、父上。あの、ちょっと待ってください」

 いきなり呪を遮られ、吉平が驚いた顔をする。
 物の怪が大の苦手の章親が、物の怪を庇うなど珍しい。
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