諸々の法は影と像の如し
「何だ、どうしたのだ章親」

 唱えていた呪は止まったが、依然印は結んだままで、吉平が聞く。

「あの、いえ……。や、やっぱり何か、ちゃんと調べてからのほうがいいような気がします」

「それはそうかもしれんが、だがそんな猶予はないだろう。大体攻撃性がある時点で放っておくわけにはいかん」

「こ、攻撃性というなら、僕の御魂様だって相当なものですよ」

 章親が言ったとき、毛玉がまた反応した。
 シャアッと猫のような唸り声を上げ、地を蹴る。

「うわぁっ!!」

 毛玉は真っ直ぐ章親に飛びかかる。
 それは章親には攻撃性がないと見抜いてのことか、はたまた単にたまたまか。

「章親!」

 吉平が、咄嗟に印を結んだままの手で毛玉を打つ。
 ただ殴っただけよりは威力があったようで、毛玉は横に吹っ飛んだ。
 そのまま森の奥へと逃げていく。

「……」

 しばらく息を荒げてその後を見送っていた二人は、ややあってから大きく息を吐いた。

「すみません、父上」

「……うむ……。取り逃がしたのは痛いが……」

 まぁ済んだことは仕方ない、と呟き、吉平は毛玉のいた茂みのほうへと足を向けた。
 章親も、怖々ながら後につく。

「それにしても妙だな。あれほど物の怪が苦手なお前が、物の怪を庇うなど。まぁお前の性格を考えれば、わからないでもないが」

 前を歩く吉平が、ぽつぽつ言う。
 物の怪が苦手とはいえ、章親は基本的に誰にでも優しい。
 それは人ならざるものに対してもだ。

 そんな章親を慕ってか、動物などもよく懐く。
 式も然りだ。
 もっともこれは、懐いているとは言わないかもしれないが。
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