諸々の法は影と像の如し
「だがあんな敵意を向ける物の怪までも、何故庇う?」

「いえ……庇ったというか……」

 章親自身にもよくわからない。
 咄嗟に吉平の攻撃を止めてしまったが、それは何故なのだろう。

「何かよくわからないんですけど……。何か感じるんです。一番初めにあの毛玉が飛び出してきたときは、焦って全然そんな余裕なかったんですけど、さっきは結構毛玉を見る余裕もあったせいか、ちょっと前とは違って見えて」

 少し興味深そうに、吉平が振り向いた。

「不思議なんですけど、そう悪い気も感じないというか。あれだけ攻撃を仕掛けられて、おかしな話なんですけど」

 自信なさそうに言う章親を、吉平はまじまじ見た。
 次いで、森をぐるりと見渡す。

「この辺りだと思ったが、別に何もないな。ここでは何か感じるか?」

 吉平に言われ、章親もぐるりと辺りを見回した。

「少しだけ、気が乱れてますね……」

 言いつつ、さらっと手を振る。
 それだけで、さぁっとその辺りが浄化された。

---やっぱり、それほど強い負の気は感じない……---

 あんなに攻撃してくる物の怪は、もっと悪い、負の気を発しているはずだ。
 攻撃する、ということ即ち、相手を倒したい、殺したい、という思い故の行動だからだ。
 だが毛玉のいたところに、そのような嫌な気は、そう感じない。

「父上。やっぱりあの毛玉について、調べたほうがいいと思います」

「無論だ。賀茂社参拝までに、正体を暴いて捕えるなりしないといかん」

 険しい顔で、吉平が言う。
 そっちのことより毛玉の正体のほうが気になっていた章親は、小さく、あ、すみません、と言って、慌てて父と共に森を去った。
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