諸々の法は影と像の如し
第六章
 その日、屋敷に戻ってから、章親は書庫に向かった。
 あれ以来あまり行きたくない場所ではあったが、そうも言っていられない。

---それに、怖いものはもうあそこにはいないはずだし……---

 そう言い聞かせ、書庫に足を踏み入れる。
 思った通り、特に怖い空気もない。

---でも、調べるっても……---

 小さい毛玉、というだけだ。

---あの毛玉がいた箱の中に、何かあるかな---

 そう思い、章親は書庫の奥に散らばったままの木箱に近付いた。
 とりあえず木箱を拾い、書庫を出る。

 すでに雨は上がり、夕日が書庫前の簀子を照らしている。
 明るいところで、丹念に箱の中を調べてみるが、特に何があるわけでもない。

---呪の札もないなんて珍しいな---

 封印を施したものには、大抵札を貼っておくものだ。
 札を貼ることによって、文字通り封をするわけだ。

 不思議に思いつつ箱の内部を触った章親は、あ、と動きを止めた。
 この感覚。

 糺の森で毛玉に感じたものと同じ感覚だ。
 何となく懐かしいような、ほんわかした感じというのだろうか。

---何だろう。もしかして、僕はあの毛玉を知ってたりするのかな---

 うーん、と記憶を辿ってみても、やはり過去毛玉に会ったことはない。
 だがこの妙な感じは、とても気になる。
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