諸々の法は影と像の如し
---恐ろしげだよなぁ。やっぱりあのお姿で良かった---

 部屋に龍がとぐろを巻いているなど、考えただけで恐ろしい。
 しみじみと思い、脇に置いていた書物を手に取った。

 最近ずっと持ち歩いて、暇があれば読み耽っていたので、元々古い綴じ目がばらけそうだ。
 龍神に関するその書物に目を落とした章親は、紙を繰りながら龍を思い浮かべた。

---そうだ。恐ろしげな龍も、綺麗な宝珠を持ってるんだっけ。もしかして、あの御魂様は宝珠の部分なのかも---

 はたして御魂として、そういった神の一部分が現れることがあるのかは謎だが、龍本体よりも宝珠のほうが、あの御魂には相応しい。
 あくまで見た目に限れば、の話だが。

---宝珠にちなんだ名前にしようかな。たま……とかだったら怒るだろうなぁ。もっと綺麗な……。う~ん……---

 考えつつ書物を繰っていた章親の目が、ある一文で止まる。

「これは……」

 『婆素鶏(ばすけい)。頭の千ある竜王。須弥山の守り龍』という、八大竜王の一柱の説明だ。

「婆素鶏……」

 何とまぁ、怖そうな、と思い呟いた章親だったが、次の瞬間、ぱし、と空気が変わった。
 驚いて顔を上げると、目の前に御魂が立っている。
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