諸々の法は影と像の如し
「……え? 御魂様、どうしたの?」

 きょとんと御魂を見上げ、次いできょろきょろと辺りを見回す。
 確かに空気がぴりっとした。
 何かが起こったはずだが、特に見えるところに変化はない。

 おかしいな、となおもきょろきょろする章親に、御魂は錫杖の先で、とん、と床を叩いた。

「やっと名を呼んだか。とはいえ、あくまで『向こう』での『我ら』の種の『総称』だが」

 毛玉が飛び込んできたりしたら困るな、などと思っていた章親は、しばらくしてから、え? と御魂を見た。

「名前……」

「先程呼んだであろ」

 そういえば、いきなり御魂は目の前に現れた。
 へそを曲げてから、御魂は部屋から出ないし、今日だって一緒にいたわけではない。

 今ここにいるということは、まさに章親の言葉に反応したからだ。
 だが章親には、御魂の名を呼んだ、という自覚はない。
 ん、と考え、はた、と気付く。

「も、もしかして、婆素鶏……」

 こくりと御魂が頷く。
 さぁっと章親の顔から血の気が引いた。
 そのまま、そろそろと視線を書物に落とす。

 『多頭龍とも。数が極めて多く、強力であるという意味で、陽の極まりである『九』の文字を冠し九頭竜王とも呼ばれる』
< 73 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop