諸々の法は影と像の如し
「く、食い殺されるところだったの?」

 思いっきり引きつつ、青くなる。
 確かにそんなことは思った。
 目の前には鋭い牙が迫っていたのだ。
 馬乗りで牙を寄せられれば、食われると思うのが普通だろう。

「あのときは何が何だかわからなくて、齧られたら終わりだな、と思ったけど……。う~ん、人ってああいう瞬間には頭が鈍くなるんだねぇ。齧られると思ったわりには、本気で食われるとは思ってなかったかも」

「何を呑気に言っておる。でも、そうじゃなぁ。我は章親の上におる怪しげな物の怪、というだけで、とりあえず追い払っただけといえばそうじゃし。もしかすると、食おうとしていたわけではないかもしれぬ」

 人のことを呑気だと言っておいて、御魂もなかなか呑気である。
 章親に襲い掛かっているように見えたので、何かわからないものでも打ち据えた、ということだ。
 これでは下手に積極的な女子などに襲われても、御魂は女子を容赦なくぶちのめすかもしれない。

「そ、そうなのかな。でももし食べようとしてたわけじゃなくて、じゃれてただけとかだったら可哀想なことしたのかな」

 章親が言うと、御魂は一瞬冷めた目をしたが、何か納得したように、うん、と頷いた。

「全く……甘いのぅ。でもまぁ、だからこそ章親の呪はよぅ効くのじゃろ」
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