諸々の法は影と像の如し
「甘いかな」

「甘い。陰陽師というのは、悪霊に立ち向かうことを生業とする者じゃろ。己に牙を剥くモノに甘い顔など見せると、返り討ちに遭うぞ」

「それはそうだけど……。だから僕は戦力にはならないんだよ」

 ちょっと、しょぼん、と肩を落とす。
 何故か章親は、今まで物の怪などに怖い目に遭わされていないのだ。

 陰陽師はそういった人外に対する気に敏感なため、大抵の者は幼い頃より物の怪に脅かされている。
 だから実際に陰陽寮で働くようになる頃には、恐ろしい物の怪や悪霊の類にも、ある程度慣れるのだ。

「僕の周りの物の怪って、皆良い子ばっかりだったんだもの。そんないかにもな物の怪もいなかったし」

「それはのぅ、章親がそういう奴だからよ。怪我をした物の怪とかを、知らず介抱してやったりせなんだか? 子供の頃など、いまいち人だか物の怪だか犬だか猫だかわからんもんよ。困っている物の怪を、疑問も持たずに助けたりしたんじゃないのか?」

「え~? どうだろう……」

 記憶を探ってみても、そういうことはよくあったが、はたしてその相手が物の怪だったかどうかまでは覚えていない。

「物の怪だったとしても、そんな怖い子はいなかったし」

「章親の周りの物の怪は、章親の気が好きなんじゃ」

 御魂が言ったことに、章親はあからさまにビビった。

「ぼ、僕の気って、そんなに美味しそうなのっ!」
< 81 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop