諸々の法は影と像の如し
---気が、そんなに美味しそうだったのかなぁ。だとしたら、僕はうっかりそのうち御魂様に食べられちゃうかも---

 何せ本身は龍なのだ。
 ぱっくり一呑みすることも可能だろう。

---丸呑みだったら痛くはないかもだけど、その後ゆっくりじわじわ溶けていくのは嫌だなぁ。それならいっそのこと、一思いに噛み砕かれたほうがいいか? いやそれも出来れば避けたい……---

 ぐるぐると怖いことを考えているうちに、前方にこんもりとした森が見えて来た。
 辺りは微妙に茜色が残っている程度で、夕闇が迫っている。

 森の外でもすでに暗いのに、森の中など夜と変わらないのではないか。
 章親の足が重くなる。

「章親。何か感じるか?」

 本来賀茂社の中にある糺の森は清浄なところだが、神域というのは異界との接点でもある。
 魑魅魍魎が多いのも事実なのだ。
 守道も、一応周りの状況を確認する。

「う~ん……。嫌な感じはしないよ。でもさ、あの毛玉だって嫌な感じはしないんだし……」

 ということは、気で察知する、ということは不可能ということか。
 ちょっと章親は、毛玉に会いに来たことを後悔した。

「何、そう心配することもあるまい。我がついておるのだからな」

 錫杖を肩に担いだ御魂が、不敵に笑う。
 情けないが、章親は心から頼もしく思った。

 ほ、と息をついたとき、不意に守道が身構えた。
 ほぼ同時に、横の茂みから何かが飛び出す。
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