諸々の法は影と像の如し
「章親!」

 守道が叫びながら放った護符が、ばらばらと章親のすぐ前に散らばった。
 その一枚が、飛び出してきたモノに触れた。
 ぎゃっと小さく叫んで、そのモノが飛び退る。

「毛玉!」

 章親が叫ぶのと、御魂が動くのが同時だった。
 振り被った錫杖が、唸りを上げて毛玉に振り下ろされる。
 だが。

「ちょーーーっ!! ちょっと待ってっ!!」

 章親が、いきなり毛玉と御魂の間に割り込んだ。
 ぎょっとした御魂だが、すっかり攻撃態勢の勢いに乗った錫杖は止まらない。
 それでも慌てて止めようとしてくれたお蔭で、若干力は弱まったようだが、章親は頭を殴られ、その場に昏倒した。

「あっ章親ーーっ!!」

 御魂が血相を変えて章親に縋り付く。
 だが、毛玉も、びょーんと跳ねて、倒れた章親に飛びついた。

 倒れたのを幸い、章親を襲おうとしているのかと、御魂も守道も身構えたが、意外なことに、毛玉は章親の胸の上に乗って、じ、と伸びている彼を見ている。
 そして、おもむろに口を開けた。
 その口腔内には、ずらりと鋭い牙が。

 章親が食われる! と思った守道だったが、予想に反して毛玉はその牙を突き立てることなく、大声で泣き出した。

「うわあぁぁ~~~ん!! あお~~んん!!」

 章親にへばりついて泣き喚く毛玉に、御魂も守道も呆気に取られる。
 見る限り、章親に害為そうという感じではない。
 頭を打たれて倒れた章親を心配しているようだ。
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