諸々の法は影と像の如し
第七章
 章親が目を覚ましたのは、とっぷりと夜も更けた頃だった。

「あ、あれ? 御魂様……」

 ぼんやりと目を開けた章親の視界には、御魂の顔と、その向こうに天井がある。
 はて、どうしたんだっけ、確か最後も御魂様を見たような、と考える。

 そういえば最後に見た御魂様は物凄い焦った顔だったな、と思いつつ、じっと御魂を見る。
 今の御魂は見慣れたいつもの顔ではあるけども、何となく心配そうに見えなくもない。

「気が付いたか。大事ないか?」

「う~ん……。あいたっ」

 上体を起こしながら頭に手をやった章親が悲鳴を上げた。
 どうやらたんこぶが出来ているようだ。
 少し動いた拍子に落ちた布を取り、御魂はそれを傍らの水盥に浸した。

「全く、我の錫杖の前に飛び出してくるなど自殺行為ぞ。我があのままの勢いで打ち下ろしておったら、章親の頭は割れておったぞ? 今後ああいう無謀な行動は慎むよう」

 くどくどと説教される。
 ぶたれたのは僕なのに、何でぶった本人に叱られてるんだろう、と思いつつも、章親は大人しく、はい、と呟いた。

 だが御魂はちゃんと錫杖を止めようとしてくれたのだ。
 乱暴に見えて、御魂様も結構優しい、と、ちょっとほのぼのした章親だったが、その目が、はっと見開かれる。

「そ、そうだ! 毛玉はっ」
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