諸々の法は影と像の如し
 初めの御魂の一撃からは救ったつもりだが、その後のことはわからない。
 毛玉は入っていた木箱と同様の運命を辿ったのではないかと焦ったのだが。

 顔を上げた章親の目が、部屋の隅に吸い寄せられた。
 深夜なので、灯は細くしか焚いていない。
 その灯の、微妙に届かない闇溜まりに、小さな影がある。

 それは章親が自分を見た、と理解すると同時に床を蹴った。
 今までのように、びょーんと跳ねて章親に迫る。

 章親の顔が引き攣った。
 悪いモノではないかも、と思っていても、まだ何かわからないのだ。
 そのようなモノに飛びつかれると、誰でも恐怖する。

 が。

「やめぃ」

 言うと同時に、御魂がどこに持っていたのか、錫杖を軽く回した。
 毛玉は簡単に錫杖に絡め取られ、部屋の隅に投げ飛ばされる。

「ちょ、み、御魂様、もう少し優しく……」

 襲われそうになった(多分)というのに、何故か毛玉が哀れになる。
 ぼん、と跳ねて、毛玉はころころと転がった。

「主に害為すモノに、優しくするつもりはない」

 多分これでも相当手加減しているのだろう。
 木箱のようにばらばらになることもなく転がったものの、毛玉は部屋の隅で丸まっている。
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