諸々の法は影と像の如し
「……いったたたぁ……」

 一面に流れる白とも銀とも金ともつかないものは、髪の毛だったようだ。
 長いそれをばさりと払い、章親の上のモノが呟きながら身を起こす。

 守道は息を呑んだ。
 不思議な色の髪から覗いた瞳は金色で、よく見ると瞳孔が縦長である。
 が、造形は目を見張るほどの美しさだ。

 年齢は章親や守道らよりも上であろうか。
 もっとも御魂に年齢などありはしないが。

「凄い……」

 思わず守道は動きを止めて、いまだ章親の上できょろきょろしている御魂に見惚れた。
 その美しい御魂は、ようやく己の下に目をやり、伸びている章親に気付いたようだ。

「このボケが! お前のせいでドジ踏んだではないか!」

 一瞬何が起こったのかわからず、守道も吉平も思考が止まった。
 まさか今の暴言は、この美しい御魂が発したのだろうか。

「おい! 人を召還しておいて、何を呑気に寝てるんだ!」

 凍結している守道らも気にせず、御魂は立ち上がると、転がる章親をげしげしと足蹴にする。
 ようやく、はた、と守道が我に返った。

「お、おいこら! やめろ!」

 慌てて駆け寄る守道に、御魂はぎろりと目を向ける。
 その視線たるや、鬼のようだ。

「我に馴れ馴れしく口を利くな! 何じゃお前は!」

 どこから取り出したのか、御魂が繰り出した錫杖が、過たず守道の顎を直撃する。
 どたーん! と守道は仰向けに昏倒した。

「お、落ち着いてくだされ。無礼は謝りまする」

 吉平がおろおろしながらも、とりあえず手をついた。
 御魂は僕ではないのだ。
 人よりも力があるのだから、敬うべき存在なのである。

 吉平の態度に、ようやく御魂は気を落ち着け、すとんとその場に座った。
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