諸々の法は影と像の如し
 とりあえず、毛玉が大人しいうちに話を進めてしまおうと、章親は自分の前の床に、小さく呪を施した。

「御魂様、毛玉をここに入れてくれる?」

 章親が作ったのは、簡単な呪の檻だ。
 そう強いものでもないので、中に入ったところで苦しんだりはしない。

「承知」

 短く言うと、御魂は錫杖を毛玉に向かって突き出した。
 あ、と章親が焦ったときには、錫杖は再び毛玉を絡め取り、そのまま弧を描いて結界の中に毛玉を叩き付ける。

「け、毛玉っ! 大丈夫?」

 慌てて章親が結界を覗き込む。
 毛玉はべちゃ、と潰れたままだ。

「し、死んじゃったわけ……ないよね」

 結界の中に入れてしまったので、触ることも出来ないのだ。
 まじまじと毛玉を眺め、心配そうに言う章親だが、御魂は呆れたように言う。

「ほんに章親は優し過ぎる。そのような物の怪、多少のことでは怪我もせん」

 多少のことではないぐらいの勢いだったけど、と心の中で思いつつ、章親は毛玉を窺った。
 しばらくして、毛玉がもぞりと動く。

「あ。毛玉、気が付いた?」

 章親の声に、ひょこ、と上げた顔は、大きな口しかわからない。
 あとは長い毛に覆われていて、目や鼻はあるのかどうかも怪しいほどだ。
 大きさは赤子ぐらい。
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