諸々の法は影と像の如し
 毛玉は章親を見ると、ぱか、と口を開けた。
 毎度のことながら、ぞろりと並ぶ鋭い牙を見ると怖気が走る。

 章親はそろりと後ずさった。
 その分毛玉が足を踏み出す。

 が、ばちっと小さな火花が散った。
 毛玉が結界に触れたのだ。

「あっ。大丈夫?」

 こういうことを避けるために、自分で結界を張ったくせに、やはり攻撃性が少しでもある呪の類を物の怪に向けるのは気が引ける。
 結局少し後ずさった身体を、章親は戻して再び毛玉を見た。
 しばし足を押さえて丸まっていた毛玉が、じ、と章親を見る(多分)。

「毛玉……」

 初めて毛玉が口を開いた。
 ん、と章親が両手を床に付けて毛玉を覗き込む。
 毛玉はおもむろに右手を上げ、己を指差して首を傾げた。

「?」

 章親も首を傾げ、そのまま二人とも、ぐぐーっと深く首を傾げる。

「……何をやっておるのだ」

 横で御魂が、不満そうに口を挟む。
 何となく、(御魂にとっては)敵である毛玉と章親が仲良さげにしているのが気に食わないらしい。
 別に章親は、毛玉の言わんとしていることがわからず、首を傾げただけなのだが。
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