諸々の法は影と像の如し
「毛玉」

 再び毛玉が口を開いた。
 指は己を指したままだ。
 しばらく毛玉を見つめ、章親は、自分も毛玉を指差した。

「……毛玉?」

 大きく毛玉が頷く。
 その途端、結界内の空気が、ぱし、と音を立てた。

「えっ……えっ?」

 章親が焦る。
 今の空気の感じは、名の契約が為されたときのものだ。

「ちょ、ちょっと待って! あれっ、今の、毛玉っ?」

「あい」

 わたわたと焦る章親に、毛玉は素直に返事をした。
 間違いない。

「いやいや、そんなはずないよ。呪、唱えてないし」

「でもわしがそれを名と理解して、章親もわしをそう呼んだもの」

 あっさりと毛玉が言う。
 お互いがそれを『名』と理解した状態で主が呼べば、それで契約成立だ。
 しかも何故か、毛玉自身が『毛玉』と指定した……ような。

「あ、あのー……。何か流れで毛玉って名前になっちゃってるけど、いいの?」

 見た目が毛玉なので、まだ正体もわからないし、適当に呼んでいただけだ。
 確かにすっかり『毛玉』が定着した感はあるが。

「章親がわしをずっとそう呼ぶもの」

「いやそれは……」

 見たまんまだからだ、とも言いにくい。
 何となく毛玉自身はこの名を気に入っているようなのだ。
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