諸々の法は影と像の如し
「どうかされました?」

「鬼の気……? 何それ」

 聞きたくないが、聞いたほうがいいだろう。
 恐る恐る、章親は肩の上の毛玉に問うた。

「あ、そうそう。ちょっと怖い気だった。わしと同様といってもね、いろいろいるのよ。鬼も悪いことばっかりする奴ばっかじゃないの。わしみたいに、酒を飲んでりゃ幸せっていうのもいるし、反対に、人を食ったりする奴もいる」

「だーーーっ! そそ、そんな恐ろしい鬼、ほんとにいるのっ? つか毛玉が感じた気っていうのは、その人食い鬼の気なのっ?」

 思いっきり引く章親に、毛玉は軽く、いやいや、と手を振った。

「人食い鬼とはいっても、そんなもんおいそれとこっちの世界に漏れられないですよ。邪の力が強いから、こっちの世界との結界を越えられないんです。大体そんなもんが簡単にこっちの世界に来れるなら、人なんてあっという間にいなくなりますよ」

「あ、そ、そっかぁ。そうだよね~」

 毛玉と二人(?)で、あははは~、と笑い合う。
 同じ鬼の言うことだ。
 これほど信用できる言葉があろうか。

 が、御魂は相変わらず渋い顔で口を開いた。

「でも貴様、怖い気を感じたのじゃろ」

 『お前』から『貴様』になっている。
 章親と毛玉が仲良くなるにつれて、御魂の機嫌は悪くなる。
 あわわ、と少し章親が焦った。
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