Fruit Jewel
Jewel1





穏やかな風に、可愛いらしい鳥の歌声。


窓から降り注ぐ暖かな春の陽射しはあたしを誘惑する為にあるようで。


あたしはそれに誘〈イザナ〉われて行くの。


夢の世界へと。


うつらうつらとまどろみ、現実と夢の狭間で旅をする。












あたしが辿り着いた世界は、遠い過去の日。


ずっと思い出すこともなかったあの日だった。




一面、蓮華が咲き乱れる場所に、幼い少年と少女が二人。


二人の少女は一生懸命に薄紫色の花を摘み、織り込んで輪を作っていく。


少年は少し離れた場所で花よりも昆虫探しに夢中になっていた。


一人の少女が立ち上がり、少年の元に駆け寄る。


『青樹〈セイジュ〉! 見て! 蓮華で作った指輪よ』


自分で作ったのか、少し不恰好な蓮華リングを両手の上に乗せて嬉しそうに眺める少女。


青樹と呼ばれた少年に、すごいね、なんて言われて更に少女は笑顔に花を咲かせる。


『ねー、青樹。コレあたしの指にはめて』


少女は青樹に蓮華リングを渡すと、そっと左手を差し出した。


子供ながらにもその意味がなんなのか分かっているように、頬をピンク色に染めて指にはめられるのを待っている。


青樹は丸い目で少女を見つめると少し困ったように少女から視線を外した。


『青樹?』


その表情を読み取れていない少女は急かすように手を青樹に近づける。


『僕……。―――――』


青樹と少女のやり取りを離れた場所から不安げな面持ちで見ていたもう一人の少女には、その声は届かなかった。


そしてフワリと風が吹き抜け、もう一人の少女が持つ蓮華が蝶のように舞い、三人の幼い子供たちの間を駆け抜けて行った。











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