Fruit Jewel


「降ります! 降りまーす! むしろ飛び降ります!!」


ギャーギャー騒いでいると、バスの運ちゃんが目を丸くして振り返る。


「あっ、気にせず運転に集中してください。この子、時々こういう発作がある痛い子なんで」


何故か納得した表情を見せ、運ちゃんは安全運転を続ける。


納得すな!!


「林檎のドアホ! こっちまで恥かいたじゃん!」 

あたしだって痛い子扱いされたのに、ギッと睨まれて反論する勇気は消え失せた。


「まー、それはいいとして。マジ戻る? あたしも付き合うよ」


「ううん、いい。苺がもしほんとに先輩に近づいてたら、あたし勝ち目ないもん」


「だーかーら! そういうところが失恋体質だって言うの! いい? 失恋なんて慣れるもんじゃないでしょーが。初めっから気持ちで負けてたら、勝負どころ逃すよ?」


恋愛マスター・唯の意見はごもっともである。


苺は、あたしが好きになった相手ばかりを次々と彼氏にしていく。


新しく好きになった人をバレないようにしていても、どういう手段を使ってか苺は嗅ぎ当ててしまうんだ。


今日のように、あたしの単純明解な性格が仇となってしまう時は別としても。


大抵、告白する前に苺があたしの想い人と付き合っちゃうから、ダメージはまだ軽い。


もしも、付き合うまでこぎつけて、その後、苺と浮気なんてされたら、それこそ立ち直れない。


そんなこんなで、あたしの心の奥深くには、苺に勝てないという気持ちが根付いてしまっている。


「勝負どころがイマイチ掴めない。…それに、正直、苺に勝てる気しないんだ」


「はー。今日はマイナス思考みたいだし、これ以上凹ますのは可哀相だね。たださ、誰にも…苺にも負けたくないっていうくらい好きな人を見付けなきゃ、林檎は変わらないと思うわよ」


その会話を最後に、無言のまま本当の目的地である駅に着き、あたしたちは別れた。






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