Fruit Jewel
「じゃあ今日はあたしが夕飯作るかー」
ベッドから立ち上がり夕飯は何にしようかと考えを巡らせる。
「あっ、それは大丈夫。聖ちゃんに頼んでおいたから」
「え゛?」
ななな…
「パパも遅くなるらしいから夕飯はいらないって。じゃあ行ってくるから」
なんですとーー!?
「ちょ…ちょっ…ママ!?」
動揺するあたしに気づきもしないでママはルンっと鼻歌を部屋に残して出て行ってしまった。
…嘘でしょーー!?
パタンと玄関の扉を閉める音が、あたしには絶望への音にとれる。
こうもあっさりとあたしの立てた完璧だったはずの計画が打ち砕かれようとは…。
そう。
“聖ちゃん”とは青樹のお母さんであって、あたしは自ら悪魔の巣窟に身を投げなきゃならなくなってしまったのだ。
とーっても厭だけれど、ママが聖ママにあたしの分の夕飯をわざわざ頼んでくれちゃったりしたものだから、それを無駄にするのは聖ママに悪い。
青樹は鬼畜だけれど、聖ママはすっごく可愛い人で、料理も絶品だ。
迷いあぐねた結果、部屋着からTシャツとジーパンに着替えて今度は玄関から青樹宅に向かうことにした。
家を出てたった10秒で行ける距離が果てしなく遠く感じる。
チャイムも鳴らさず、安崎家の中に入り、真っ直ぐダイニングへ目指す。
そーっと部屋の中を見ると聖ママ一人だけ。
「よかったー。悪魔がいない」
ホウッと胸を撫で下ろす。
「何がいないって?」
背後の頭上から低い響き。
ソロリとあたしは振り返る。
口角を上げてものすごくイジワルな顔をしている青樹。
こんな顔をしている時は口に出すのも恐ろしいくらい悪い事を考えてる時って決まってる。
い………イヤーーー!!!
あたしは本日二度目になる声にならない叫びを上げた
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