Fruit Jewel
事件と呼ぶには大袈裟だけど、久々に垣間見えた美並ちゃんの元ヤン姿にはマジビビりした。
それでも美並ちゃん同様お腹が空いている生徒諸君はそれぞれにランチタイムを楽しんでいる。
あたしは当事者で、1番ビビったけど、やっぱり生理的なモノはどうしようもなくて、お弁当箱を広げて卵焼きを口に入れた時だった。
「にしても林檎。美並ちゃんの授業で居眠りだなんて、あんたチャレンジ精神旺盛なのもたいがいにしておかないと、命いくつあっても足りないわよ?」
風が起こりそうなツケマをパタつかせて、目の前に座る唯があたしを見る。
「チャレンジ精神とかじゃないってば」
「まー、なんにせよあれだけで終わってよかったよ」
おだんご頭の梅ちゃんの言葉に揃って頷いた。
「前回の豹変の時は凄かったわよね。ほら、乃木ってば丸坊主にさせられたし」
唯は小声であたしたちに囁く。
唯の視線を辿り、あたしと梅ちゃんは頭だけ後ろを向くと、中途半端に伸びた髪の乃木くんがいた。
視線に気づいた乃木くんは、何を勘違いしたのかウインクしてきた。
それも半目のウインクで。
それを見なかったことにして、あたしと梅ちゃんは頭を正常な位置に戻した。
「…ねぇ、出来ないならやらなきゃいいと思わない?」
げんなりした声の梅ちゃんの意見は正論だ。
「つーかアイツ。まだ中途半端なウインクし続けてるんだけど。変なヤツ」
なんて毒を吐きつつ唯は笑顔で乃木くんにひらひらっと手を振る。
「悪女って言葉は唯の為にあるようなものだね」
感心してるのか、本心からなのか、梅ちゃんが呟く。
唯と梅ちゃんは子供の頃からの付き合いで、一見対照的なタイプだけど、何故か仲がいい。
だからこそ、毒も毒じゃなくなって冗談で済ませられるんだ。
「あーら、あたしより悪女がこのクラスにはいるじゃん。ねぇ林檎?」
「あの女に比べたら、唯が天女に見えるよ」
梅ちゃんは「唯が天女!? ウケるー」なんて笑ってたけど、あたしはいたって真面目だった。
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