Fruit Jewel
「えっと…って!!」
ヒュン!
返事をしようとした瞬間、ボールがあたしの顔スレスレに飛んできて、危うく今よりももっと顔の造りが崩れるところだった。
「わりー! ボール取って」
「乃木ッ! 他に言うことあるでしょうが!? 顔にぶつかったらどーすんのよ」
ボールを投げ付けながら叫ぶ。
「そんときは責任取らせてもらいます」
ボールをキャッチしながら、またあの中途半端なウインクを投げてきた。
…不覚にもあたしは顔を赤らめる。
どっどっ……どーゆー意味〜!?
走り去る乃木の後ろ姿が格好良く見えるのは幻なのか。
「その病的なまでの惚れっぽさはどうかと思うわよ」
唯が冷ややかに言う。
…はい、あたしもそう思います。
現実を見れば、相手は頭も仕種も中途半端な乃木でした。
あたしが今、夢中になっている佐渡 逸槻〈イツキ〉先輩は、高校に入学してから9人目に好きになった相手。
たった一年ちょっとでこの人数は多い。
唯が病的だと言ったように、あたしは異常なまでの恋愛体質だ。
自覚はしている。
もちろんどの恋もいい加減な気持ちじゃなかったし、恋にやぶれた時はいつも泣いた。
それでも恋するのをやめないのは、恋をしている時の胸が締め付けられる感覚や、少しの会話でも頭の中の小さなあたしが、ブラジルのカーニバルを思い出させる陽気な踊りをしてみせる瞬間が好きだから。
まあ、1番の理由は、昔の恋を忘れるには新しい恋がいいってわけで。
つまりはそれだけ失恋してる。
唯曰く、あたしは恋愛体質じゃなくて、失恋体質だそうだ。
うっさいわ!!
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