Fruit Jewel



授業が終わり、更衣室で着替えを済ませて教室へと戻ろうとした時、あたしたちが身に纏っているジャージとは違う色を着た集団が体育館へと向かうところだった。


あ…あれは!?


一団の中でも一際輝いて見えるその人は、まさしく佐渡先輩!


いつもは無造作に流している黒髪を今日は逆立ててワイルドな感じがたまらく素敵ですっ!


飛びつきたいのはやまやまだけど、変態扱いされたら元も子もない。


それでなくとも今度ばかりはバレるわけにはいかない。


ううっ…話し掛けたいけど話し掛けれない。


美化委員の後輩としては無視するのも不自然だし。


迷いあぐね、横を歩く恋愛マスターの唯をちらりと見る。


唯は無言で首を振り、後ろを見るような仕種をした。


そこには苺が地味っ子のメイちゃんと歩いている。


あたしはしゅんとして仕方なく気づかないふりをして通り過ぎようとした。


「五十嵐じゃん!」


あたしの葛藤を知らない先輩は、横切った時にあたしに気づき話し掛けてきた。



嗚呼、先輩。


貴方に気付いてもらえたこの喜びを…もう抑えられませんっ!!


「あっ、先輩、こんにちは」


でも、苺が後ろにいることは分かっているし、あからさまな態度も取れなくて、冷静に返事をした。


本当は背中に羽が生えて、宙にも浮きそうな心持ち。


「五十嵐たち体育だったんだ。オレら今からなんだ」


ジャージのポケットに手を突っ込んだまま、よりあたしに近づく。


距離感があたしを高揚させる。


ドキドキし過ぎてまともに先輩の顔が見れない。


「えと…バレーの授業だったんです」


もー! あたしはバカか!


こんなつまらない返ししか出来ないなんてぇ!!


もっと、こう…会話が広がるようなこと言えないのかい!


「じゃあオレら行くから」


「はい。あの…頑張ってくださいね」


八重歯を覗かせてあたしに微笑みかけてくれた先輩は体育館の中へと消えて行った。


先輩が見えなくなると同時に、あたしの羽は引っ込み、さっきまでの高揚感をマイナスにするくらい肩を落とす気分だった。


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