Fruit Jewel


その日、最後の授業は全く耳に入ってこなかった。


あたしっていつも好きな人の前だと上手く話せなくて。


……激しく自己嫌悪。


「…ご」


はー。あたしってほんっとダメダメ子じゃん…


「おい、こら! 林檎ーー!」


キーンと耳鳴りが脳天を貫く。


その衝撃にあたしは椅子から転げ落ちた。


「イデデ…唯! 何よ、も〜? いきなり耳元で大声出さないでよ」


そう言って唯を見上げると唯は一つため息をついた。


「ずっと呼んでたっつーの。ったく、その調子じゃ授業とっくに終わったのにも気付いてないんでしょ?」


言われて初めて気が付く。


教室内に残っている生徒はまばらにしかいない。


あたしはどうやら授業を丸々1時間分費やして、先程の失態ぶりに浸っていたみたい。


「梅ちゃんは?」


気を取り直し唯に訊く。


「梅なら用事あるとかで帰ったよ。あたしらも帰ろっか」


頷いて唯に従う。





校舎を出てバス停で唯と並びバスを待つ。


数分としない内に来たバスに乗り込み、運よく二人共座る事が出来た。


「林檎さ、六限目ずっとぼーっとしてたけど、また落ち込んでたんでしょ?」


「あー、うん」


見抜かれているというより、あたしの行動パターンはお決まりになってるらしく、それを知る唯は聞かなくても分かるらしい。


「一つだけ忠告しとくと、今日のあんたの言動で苺も気付いたと思うよ」


「うそっ! あたしそんなに分かりやすかった!?」


「やすかった。つーか、林檎の場合、気がない相手は饒舌になって、少しでも気になる相手には全くってくらい話せなくなるから分かりやすい」


色んな意味でガボーンと口が塞がらなくなる。


苺に気づかれた!?


あたしって分かりやすい=単純ってこと!?


「どっどっ…どーしよー!?」


「どーしようったってねー。バレたものは仕方ないよ」


「今頃、佐渡先輩が毒牙にかかってるかもしれないよぉ!?」


「まー、なくはないわな。苺、ソッコー教室から出てったし」


ガボーン。



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