俺は絶対好きにならない
そばにいる
2次会のカラオケで思いっきり歌って、イライラを解消させる
頭のことは彩羽が無事に帰れたかどうかで心配だったというのが本音だった

2次会も終わって一人で自転車を走らす
家に帰るついでと自分に言い聞かせて、彩羽の家をのぞく
相変わらず、明かりはともっていない
母親は今日も帰りが遅いらしい
時計を見ると22時半だ
彩羽の家の駐輪場に目を向けると、彩羽の自転車がない

焦って、彩羽の家のインターホンを押したり扉をドンドンしたがなにも反応がない
彩羽の携帯にかけてもつながらない
もしかして俺家に来てるかもと家に帰るが、彩羽はいない
ばたばたしているので、親が何事かと聞く
彩羽がいないと伝えると、親も彩羽を探し出す

ルイや心当たりのある彩羽の友達に連絡を入れるが、どれも引っかからない

「あいつ、どこいったんだよ」

どんなにゆっくり遅く帰っても、家に着いていないとおかしい時間である

来た道を、自転車で戻る

「いろはー、いろはー」と名前を呼びながら探す

ふと、目線を変えると、公園があった
引っかかる気がして、入っていく

「いろはー!!」
この公園は少しさびれていて、暗がりで不気味だ
彩羽を早く見つけたいことに間違いないが、ここにはいてはほしくない
1人でなんていてほしくない

だが、俺の嫌な想像は的中することとなった

草むらの端に自転車の車輪が少し見えてしまった
慌てて、走って草むらにかけよると彩羽の自転車だった
「いろはっ、いろはーー!!!」

辺りの草むらを探しても、彩羽はいない

自転車の名前のところに、彩羽の字で彩羽の名前が書いてある
第一、彩羽の自転車を見間違えるはずがない

唇をかみ切りそうなくらい、無意識にかんでいた
口のなかが血の味がする

あのとき、1人で返さなければ
その後悔が、幾度となく俺を責めたてる

そのとき、急に大きな風がぴゅーっと吹いた

「わっ」
しりもちをつきそうになって、何かを思い出しかける

木の上から誰かが自分の上に落ちてくる

周りを見渡すと、なぜか懐かしい情景

草むらをおしのけて、引き寄せられるように、奥へ奥へ入っていく

なぜか彩羽がいるような気がした

木の陰のライトを照らした範囲内に彩羽のスカートの端が見えて、はしって近寄る

木の陰にいたのは、おびえきった彩羽だった

「いろはっ」
「け、けーちゃぁんっっ」
俺を見るなり、抱きついて、大泣きしだした

俺はなにも言えなくて、力いっぱいに彩羽を抱きしめるしかできなかった

そして、思い出した

「けーちゃん、ごめんね、ごめんね
私、いじになりすぎてた」
つっかえ、つっかえ話す彩羽を見て、胸が苦しくなる

ごめんは、俺だって、事情はわからないけど、こんなになった彩羽を独りにしたのは俺の責任だ
ほんとうにごめんって
なのに、なんていえば彩羽に足るのか
謝ることが正解なのかわからなかった

そんな俺を、気づいているのか、気づいていないのか、再び俺を抱きしめてギュッとして言う
「けーちゃん、来てくれてありがとう」

抱きしめたままで言うから、顔が全然見えない

「いろはぁ、独りにしてごめん」
気づいたら俺も泣きそうになっていた

「思い出した、、、
彩羽が言ってた事思い出した

3人で遊んでた時に、彩羽が木から落ちそうになってかずはすぐに木に登って彩羽をたすけようとして、でも結局間に合わなくて、おたおたしている俺の上に彩羽が落ちてきたこと
あのときも、俺なんにもできなかった
だから、俺はかずみたいにすぐに的確なことできない代わりに、俺は彩羽に約束したんだ彩羽をずっと見てるってそばにいるって
彩羽がピンチな時にすぐに気づけるようにって

なのに、、、」

彩羽は首を振って、俺をじっと見る

「かずくんはいつも的確に動いてたけど、けーちゃんはいつだってちゃんと見ていてくれた
2人ともが危なくならないようにって
もしあのとき、かずくんとけーちゃんの二人とも登ってきていたら、私は怪我してたよ」
「それは結果論だよ」
「結果でもいいよ
私は、けーちゃんの腕の中で助けられた」
「たまたまだよ
あのときはかずが少しだけ足りなかった、今日はかずがいなかった
ただそれだけだよ」
「たまたまでも、結果でもなんでもいいよ
私は、けーちゃんがいてくれたから助かったんだよ」
「、、、」

彩羽は泣きそうな顔をして、また俺の肩に顔をうずめる

「けーちゃん、私ね
知らない男の人に声かけられて、自転車捕まえられて、怖くて必死で逃げた」

彩羽に添えていた手が強くなる

それを感じた彩羽は
「怖かったけど、でも、もう、けーちゃんが来てくれたから、大丈夫だよ」

その場にいなかったことが悔しくて仕方なかった

「けーちゃんが心配して、送るって言ってくれたのに私が無理やり断って、
私が意地になりすぎてた罰だね

我儘いって、意地張ってごめん」

だから、ごめんを言うのは俺だって

「彩羽は謝る必要ないよ、俺だって彩羽の言葉に意地になって突き放した
無理にでもついていけばよかったんだ
彩羽を喧嘩だなんだって一人で帰らせた俺が全部悪いんだ」

「けーちゃんは変わらないなぁ

私が木から落ちた時も、ねんざした自分よりも私のことを先に心配して、
あげくに彩羽が怪我するより、自分が怪我したほうがずっといいって言うんだもん」

「彩羽に怪我なんかさせられないよ」
「私はけーちゃんのそういうところ好きだよ」

少し、照れながら「ありがとう」と言ってみた
彩羽は嬉しそうに笑った

少し、落ち着いてきたところで、立ち上がって、自転車を押しながら歩き出す

すると、彩羽が立ち止まって、俺を見る
「けーちゃん、今から私凄いわがまま言うね」

相変わらずの急にだが、相変わらず俺も動揺せずに聞く

「ほんとはね、けーちゃんを信用できない自分が怖くて仕方なかった

もっとわがまま言うと自分なんかよりルイが大事にしてくれるっていう言葉が大嫌い
けーちゃんが彩羽のことを一番に大事にしてくれなきゃ嫌だ、絶対に嫌だよ
彩羽の一番近くにいるのもけーちゃんがいい
好きにならなくていい
お互い結婚しても、隣に家立てるとか、どんなときもそばにいてほしいの
彩羽が困ったら、一番に来てくれるのはけーちゃんがいい

好きになったら嫌いになる
だったら好きにならないで親友でいて

ルイと付き合っても、俺が近くにいるよっていう、その言葉が欲しかったの
ずっと見てるよ、そばにいるよっていう言葉が欲しかったの」

「ふぅー」
っと長く息を吸うと冗談めかして彩羽は笑った

「っていう我儘」

俺は自転車を倒して、彩羽をぎゅーっと抱きしめる

「俺は彩羽のそばにいるよ
ずっといるよ
彩羽がうっとうしいって思うくらいそばにいるよ」
「私は、そう簡単にけーちゃんのこと鬱陶しいって思わないけど大丈夫?」
「余裕だし、
彩羽を危険な目にあわせるくらいならどう思われてもいいよ」

彩羽はされるがままに俺に抱かれていた

すると、携帯がなる
放置しようかと思ったが、ずっとなり続けるので、俺は電話に出る

「もしも」
「彩羽みつかったか!???」

慌てた声を出すのは、ルイだった
すっかり忘れていたが、探し続けてくれていたようだった

「ご、ごめん!見つかった」

彩羽に携帯を渡すと、心底安堵したような声が聞こえる
少し話して、疲れたから、また明日ということで電話を切った

そのあとは、一緒に探してくれていた人に、彩羽の無事を伝えることで割と忙しかった

彩羽を家まで送った後、俺も家に帰る
彩羽を独りにするのが、心配だが、さすがに女の子1人の家に泊まるのはさすがに言い出せなくて、別れる

「絶対、鍵閉めて寝ろよ」
「わかってるよ」
「絶対だからな」
「けーちゃん、ありがとう」
「うん」

別れても、心配で寝付けなくて、結局、朝がきた

ようやく寝つけたのは、外が明るくなってきたころだった

「けーちゃん!おはよう!!」
飛び込んできたのは彩羽だった

今日も朝から元気いっぱいな様子で、俺を起こしにかかる

「やっぱり、寝てると思った」
「彩羽はちゃんと寝られたのかよ」
「寝られたよ
けーちゃんと仲直りして元気になった」
「喧嘩始めたのは彩羽じゃん」
「えへへ」
「だから、あと5分寝る」
「遅刻する」
「待ってて」

ぶーぶーいう、彩羽をよそにゆったりと着替え始める

彩羽と笑い合って、急いで家を出る
「遅刻したら、けーちゃんのせいだからねっ」
「はーい、急ぐぞ」
と勢いよく、2人とも自転車をこぎだす

いまは、彩羽のそばにいられる
これから、2人の関係がどう変わろうと、俺はずっと彩羽のそばにいたい
彩羽もそれを望んでくれているのだから、俺にとってそれだけでもう十分だ
そばにいられるのは友達だからとか恋人だからとか関係ない、そばにいと思うからそばにいられるんだ
ただ俺たちはずっと続くようにという思いを込めて、この関係を「親友」という
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