心が聞こえる
 そして、近くにいた二人の男の人達のところへ行き、何やら話しをする。
「……という訳で、あなた達の前を彼に歩いてもらうから、よろしくね」
 その二人は、スタンバイをしていたエキストラだった。
 話し終えると、理恵は一輝の方を向き、
「ってことで、決まったから、今からやること教えるね」
「――やることって?」
 そう尋ねる一輝と向かい合い、さも当然のごとく理恵は言う。
「今から、ちょこっとだけだけど、撮影にエキストラとして出て貰うから」
「……え……?」
 一瞬理解できず、立ち尽くす。
「――時間あるんでしょ? だったら大丈夫よね」
「え……ちょっ……ちょっと待って、何で俺が!?」
 突然の理恵の強引な言葉に慌てる一輝。
「私、あなたのこと気に入っちゃったし――面白そうだから」
 臆面もなく、言ってのける。
「……で……でも……俺、演技なんて……したことないし……」
 まだ多少混乱が残っているのか、上手く言葉が出せない一輝。
「大丈夫だって。ただ歩いてくれれば良いだけだから」
「けど……」
「男でしょ? バーンとカッコイイところ見せてよ!」
 笑顔で背中を押す理恵。
「じゃあ、あとは湯野さんの指示に従ってくれればOKだから」
 そう言って、他のスタッフの所へ向かう。
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