心が聞こえる
 残されて戸惑う一輝に、湯野が声をかける。
「じゃあ早速だけど、良いかな? 簡単なシーンだから、そんなに緊張しなくて良いよ」
 何故こんなことになったのか、未だに理解できない一輝だが、理恵の強引な押しと状況に流されていく。
「君は、渡り廊下の向こう側にいて、この男が手で合図をしたら、こっち側に歩いてきて。途中で理恵ちゃんがぶつかってきて謝ってくるけど、あまり気にしてない感じで、そのまま歩いて来てくれれば良いから」
 と、湯野は隣にいる男を指さしながら説明をする。
「じゃあ、君は向こう側に移動してスタンバイして。
 ――で、そこの君達! 撮影するから移動してくれるかな!」
 向こう側では、悠と美香が、一輝のことを心配そうに見守っていた。
 一輝は小走りで二人の近くまで行く。
「一体どうなってるんだよ?」
 いまいち状況が掴めず、一輝に聞く悠。
「何か分からないけど、エキストラで出ることになった」
『ええっ!』
 声を揃えて驚く二人。
「とりあえず後で話すから、二人は外で待ってて?」
「分かった……後でちゃんと説明しろよ?」
 そう言い、外へと向かう悠と美香。
 それと入れ替わるように、先ほどの二人の男達が一輝の後ろの方に立つ。
「じゃあ始めるよ!」
 湯野のその声に、少し緊張する一輝。
 自分が納得する前に話が進んでしまっていたが、もうこうなったらやるしかない! と一輝は心の中で腹をくくっていた。
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