心が聞こえる
「ここがうちの店」
 理恵と二人、店の前で佇んでいる。
「へぇー。
 なんか懐かしいと言うか、温かいと言うか……そんな感じがする素敵なお店だね」
「単に古いだけだよ」
 苦笑しながらも、どこか嬉しそうな一輝。
「ま、どうぞ」
 と言って一輝は扉を開ける。
 中には、二、三名の客が、静かにお酒を飲んでいた。
「いらっしゃ――あら、お帰り」
「ただいま」
 店のカウンターでは、亮子が料理の盛り付けをしていた。
「あら、お友達?」
 二人がカウンターへ近付くと、亮子が声をかける。
「はじめまして。真嶋理恵と言います」
「理恵ちゃんね。
 ……どこかで会ったことあるかしら? 何だかお顔を見たことがある気がするんだけど……」
「彼女、女優さんだよ。
 最近テレビによく出てるから見たことあるんじゃない?」
「あら、そう言えば――テレビで見たことあるわ。
 ごめんなさいね、すぐ気付かなくて」
「いえ、気になさらないで下さい」
「――一輝、こんな可愛い子とどこで知り合ったの?」
「まぁ……それは……色々とあるんだよ……!
 ――とりあえず、ここ座って」
 理恵にカウンターの席に座るよう促す。
「一輝、理恵ちゃんに何か出してあげなさい」
「分かってるよ」
 カウンターの隅に行き、腰に黒いエプロンをつけ、カウンターの中へと入る一輝。
< 23 / 32 >

この作品をシェア

pagetop