心が聞こえる
「ありがとうございます。
 ――このお店って、ほとんど大山さん一人でやられているんですか?」
 理恵がそう言うと、亮子は思い出したような顔をして――
「そういえば私の名前言ってなかったわね――亮子って呼んでくれて良いわよ。
 ……そうね、ほとんど一人で切り盛りしてるわね」
「お一人だと毎日大変じゃないですか?」
「……昔は夫と二人だったんだけど、別れてからは一人ね。
 でも、忙しい時は一輝にも手伝って貰ってるから大丈夫よ」
 そういって一輝の頭を、ぽんぽん、と軽く叩く。
「この子も、小学生の時から一生懸命に私の手伝いをしてくれてね。
 今では、一人でお店まかせられるくらいよ」
「そんな……まだまだ母さんの料理には敵わないよ……」
 亮子の太鼓判に、自嘲ぎみの笑みを浮かべながら言う一輝。
 すると、亮子は一輝の方を向く。
 一輝もそれにつられて、顔だけ亮子の方に向ける。
 亮子は一輝の瞳を見つめ、優しい眼をしながら語りかける。
「何言ってるの。
 一輝はもう十分一人でもやれるんだから。
 いつも言ってるけど、もっと自分に自信持ちなさい」
 一輝はそう言われ、少し胸が熱くなるのを感じる。
「――素敵なお母さんですね」
 その言葉を聞き、素直にそうつぶやく理恵。
「私にも、亮子さんみたいなお母さんがいてくれたら、毎日幸せだろうなぁ……」
 羨望の眼差しで、亮子を見つめている理恵。
「理恵ちゃんのお母さんも素敵な人じゃないの?
 理恵ちゃんみたいに、こんなにしっかりした子供がいるんだから」
 微笑みながら、亮子は言った。
 すると、理恵は少し寂しそうな目をして――
「……私の母は、五年前に亡くなったんです。
 父とも離婚してたので、今は妹と二人暮らしで……」
 と、少しだけ沈んだ声で語る。
 それを聞いて、亮子は申し訳無さそうな顔をする。
「そうだったの……ごめんなさいね、変なこと言って……」
「いえ。
 ……母のことは、今でも思い出すと、少しだけ寂しいですけど……
 でも今日は、亮子さんみたいな、素敵な人に出会えたし、久しぶりに美味しい手料理が食べられて、本当に嬉しいです。
 亮子さんに、私のお母さんになって欲しいくらい」
 優しく元気な声で、理恵はそう言った。
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