心が聞こえる
「ちょっと、止めて下さい!」
 グラスを持っているのも忘れて、とっさに仲裁に割り込む一輝。しかし、
「うるさい!」
 と言って、中年の男に腕を掴まれる。
 ――強い痛みが一輝の頭を突き抜けた――
 その痛みに、グラスを落としてうずくまる。
「一輝!」
 亮子は驚いて、カウンターから飛び出し、一輝の肩を支える。
「大丈夫?」
「……大丈夫、ちょっと頭痛がしただけ……」
 心配そうに見つめる亮子。
 その様子に、ケンカをしていた二人も、決まりが悪そうに立ち尽くしていた。
「とにかく、上で休んでなさい」
「……平気、手伝えるよ」
「いいから休んでなさい!」
 亮子の強い口調に、しぶしぶ自宅のある二階へと向かう。
 自分の部屋に戻り、ベッドへと仰向けに寝転がり、天井を見つめる。
 さっきまでとは打って変わって、誰もいない静かな空間が、一輝の心を締め付ける……
「……何で俺だけ……こんな……」
 悔しさで涙が溢れ、言葉に詰まる一輝。
 そんな自分を落ち着かせるように、手のひらでまぶたを覆い、ゆっくりと深呼吸をする。
 やるせない空気が一輝を包んでいた……
< 4 / 32 >

この作品をシェア

pagetop