心が聞こえる
 月曜日、太陽が頭上に輝いている頃。
 一輝は、いつものように、大学のキャンパスにある、大きな木の下にいた。
 昼間は大学、店が忙しくなる夜は店の手伝いをする、という生活がずっと続いていた。
 一輝は、息抜きのつもりで、よくこの木の下にきて、座って空を見上げている。
「――よう、もう終わったのか?」
 突然、肩を組まれたので横を見ると、同級生で幼馴染の白石悠(しらいしゆう)がいた。
「悠兄こそ、終わったの?」
 悠は一輝と同い年なのだが、自分の兄のように振舞う悠を、一輝は幼い頃から自然と悠兄と呼んでいた。
「俺も今日は終わった。これからデート」
 そう言いながら、悠が後ろを見る。
 つられて一輝も後ろを振り向くと、悠の彼女の新庄美香(しんじょうみか)がいた。
「一輝は、この後予定あるの?」
 一輝の横にしゃがみ、美香が聞いた。
「いや、今日は店の手伝いも無いから空いてるけど?」
「だったら、三人で撮影見に行かない?」
「撮影?」
「今ね、うちの大学の渡り廊下の所で、ドラマの撮影やってるんだって。
 だから悠とデート前に、ちょっと見ていこうか、って話してたところでね。
 一輝も一緒に行かない?」
 やたら楽しそうな顔で誘う美香。
「別に良いよ。俺もちょっと見てみたいし」
 一輝がそう答えるやいなや、美香は突然立ち上がり、歩き出す。
「だったら早く、ほら行くよ」
 一輝に手招きをし、小走りで行く美香。
「美香、楽しそうだよね」
「あいつが一番見たがってたからなぁ……」
 やれやれ、といった感じで、美香に遅れてついて行く一輝と悠。
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