心が聞こえる
 渡り廊下の近くまで来ると、やたらと人だかりができていた。
「ちょっと、これじゃ何も見えないじゃない」
 美香は不満を漏らす。
 渡り廊下は外に面していて、遠くからでも見えるのだが、撮影の為に近くまで行けない上、見える場所には人だかりが出来ていて、誰が撮影に来ているかすらよく分からないぐらいだった。
「こうなったら、渡り廊下の所まで行くわよ」
「ちょっと、それはマズイんじゃないかなぁ……」
 悠が心配そうに美香に言うが、
「私達の学校なんだから、別に良いでしょ?」
 と言う美香の意味不明な意見に押されて、三人は渡り廊下まで向かった。
 渡り廊下に着くと、壁越しに上から美香、悠、一輝の順番で、ドラマに出てくるような、尾行している探偵のように撮影現場を覗き込んでいた。
 撮影のスタッフは、ちょうど三人とは渡り廊下を挟んで反対側を陣取っているので、三人の近くには他に誰もいない。
「女優が来てるらしいけど、誰なのかしらね?」
 今は休憩中なのか、人が集まっていて、それらしき姿は見当たらない。
「あっ……あれって真嶋理恵(まじまりえ)じゃない?」
 突然、美香が小声で言った。
「どこどこ?」
「ほら、あの青いTシャツ着てる男の人の横」
 一輝も目を凝らして見てみると、確かに真嶋理恵がいた。
 彼女は、最近有名になってきた女優で、今度ドラマで初主演を勤めると雑誌にも載っている。
「すっごく綺麗で可愛い。やっぱりテレビで見るより、可愛いわね」
 芸能人を生で見た感動で、やたらを目を輝かせている美香。
「あっ……こっち来る」
 撮影が始まるのか、次第に三人の近くに歩いてくる理恵。
< 6 / 32 >

この作品をシェア

pagetop