俺様オヤジの恩返し
タクシーの中で腹をくくった私は、
西藤先生に腕を取られ、門扉を構えた家の前に降ろされた。

業界の人間なら常識だろうけど、当然防音設備の整った、
何だか高そうなその家に入って、高そうな調度品が並べられた部屋に通された。

私が済んでいるマンションとは大違い。
うちは内側を防音処理しただけの普通のオートロックマンション。


一人暮らしの男性の部屋に上がることなど無い生活をしている私は、
おずおずと彼の後をついて行き、薦められた場所に座って落ち着いた。


「コーヒー、入れるから待って」


ポコポコポコ……。
えっサイフォン?ここはカフェですか?


「サイフォンなんて、珍しいね」


「趣味なんだ。……砂糖とミルクは?」


「どっちも要らないよ」


「おっ、美味いかどうか、腕がバレるな。緊張するわ」


「そんな通じゃないから分からないよ。
いただきます」


……いい香り……。


「いい香りで美味しい」


「それはどうも」


ピアノのコンクールの盾や賞状がたくさん飾ってある……やっぱり凄い人だったんだな。


何となく思い出した…。
西藤将吾……。リストの超絶技巧を弾いて何か賞獲った人だ。

仕事がこれなのに、コンクールの事をあまり詳しく知らない。絶対怒られるから口にしないけど……。

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