俺様オヤジの恩返し
「今日は……今日もバイトか?
帰り、飯食いに行かないか?」


「……うん、今日は店に出ないから、いいよ」


もう、彼氏のつもりなんだもんなぁ…。
強引なんだから……だから俺様っていうのか、そうか。





多国籍料理のお店で、ベトナムの何とかっていう生春巻をアレンジした料理が美味しかった……。


お互いに好き嫌いが無いのがわかってちょっと嬉しい。
食の嗜好が一致するのは大事だから。

よく言われる。
ご飯とベッドが合う夫婦は離婚するに至らない…と。

別れた夫とは、ご飯もベッドも合わなかったかも知れない。




そろそろ…と思ってトイレに立った。

タイミングが悪かった…。

私が向かう方向から、驚いた様な笑顔が近付いてきて声をかけられた。


「愛さん!いやー、奇遇だねぇ。同僚と飲み食いしてたんだけど、こんなところで会うとはツイてるなぁ。
どう?これから二人でイイとこ行かない?」


お客さんの高木さん……。以前から店の外でデートをしようと誘われていた。

私がいた席の近くなんですけど。将吾はきっと聞いているに違いない。

そもそも、風俗嬢に源氏名で店以外で声をかけるなんて、マナー違反。
どう対処しよう…迷っていると、後ろから将吾が近寄って、私の肩を抱き寄せて言った。


「失礼ですが、人違いのようですね。
だいぶ酔っていらっしゃる様だから、似ている女性と間違えたのでしょう。
この人は俺の連れですので……」


私を連れて出ていこうとする将吾に高木さんが余計な一言を……。


「あんた、愛さんの旦那?それとも彼氏?
知らないようだから教えてあげるけどこの人はね、『俺の女は音楽の専門家ですから。人違いですね、失礼します』」




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