俺様オヤジの恩返し
店を出て、地下鉄駅まで歩く。
何か、喋ろう……何か。


「あぁ言うのは……常識が無いっていうか、普通はシカトするのが暗黙のルールだよね……。
自分だってさ、家族といる時に私に声なんか掛けられたくないはずなのにね。

あっ!やだ、そうだ。
ごちそうさまでした。美味しかったよね、あのお店」


「……大丈夫だ」


「……ん?」


「俺の方がずっとイイ男だから気にしてないぞ。
絶対、俺の方が上手い」


……何がでしょう……俺様エロオヤジですか?
話をそらしてくれて優しいけど。


「まぁ……たぶんそうだと思う。でも、対抗しなくても…」


「それより、職業のヒントになるような事を言ってしまったが……」


「あ、大丈夫、大丈夫。プロフィールにも音楽講師って載ってるから。

これからも、こう言うことがあるかもしれないんだよね、知らん顔するしかないけど」


「それなら堂々としていればいいさ。
俺の女はシンセサイザー奏者の橘理恵子だ」


「いや、そこまで言われるのはさすがに困る…」


「じゃあ、俺の命を救った音楽家だ」


またずいぶんと、大層なものにされてしまっているようだ…。





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