俺様オヤジの恩返し
その日は、店の出番の最後の日だった。


あっさりしたもので、『お疲れさまでした』の一言で終了だった。

明日の朝、婦人科に行って、一応色々と検査をして貰おうと思う。




地下鉄駅で電車を待っていると、反対側のホームによく知った顔を見付けた。

将吾…。

向こうもこちらに気がついた様だったけど、
私はその隣の女性の存在に気が付いて、何気無く視線をずらし、
まもなく入ってきた電車に乗った。


同じ方向に帰るので一緒に電車を待ってただけなのだろう。

なのに、どうしてこんな風に、不愉快な気分になっているんだろうか…。

その女の人はサックスの吉岡講師。
フランクに誰とでも仲よく付き合う人だから、
たぶん終業時間が一緒になって、ご飯か飲みに行ったんだ。

思考は納得している。でも、心が全然スッキリしない。


私は10年以上ぶりに、嫉妬という気持ちを味わったのだった。


あぁ…やっぱり、ちゃんと好きになっていたんだ…。

それがわかって、私の心は別のスペースで喜びを感じていた。





お風呂から上がると、スマホが点滅していた。
将吾からだった。


『今日であっちは最後だったよな?
お疲れさま。
すすきの駅で会ったよな?
反対ホームで残念だった。

これで晴れて心置きなく《かぁわいい》のを発揮して貰える。

じゃ、おやすみ』



『将吾のお陰で辞められたよ。
ありがとう。
さっき、駅でわかった…ちゃんと好きだって。

おやすみなさい』




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