俺様オヤジの恩返し

風俗嬢の理由

実際は……。


２０年以上シングルマザーで生きている。
でもこれは理由にはならない。


シングルマザーがみんな風俗で働かなきゃ食べていけない訳じゃない。
そんな言い訳は他の職種で頑張っている人に失礼。
だから私は『シングルで大変なのー』なんて事は絶対言わない。


自分の経済力の無さは、両親の生前、若い頃に、
親の脛をかじりまくって趣味と仕事を一緒にして、好き勝手やっていたせいだ。
結婚生活が破綻したのも、甘えた考えで生きていたせい。


男をみる目が無いのはその失敗で学習されず、
離婚後、付き合っていた男に貸した何百万もの借金を踏み倒された。

『返してもらえばいいじゃない？』
そう言われると思うから人には言わない。
芋づる式に自分の過去をアレコレ話さなければならなくなる。


人の旦那だった。
不倫。
私が奥さんに訴えられたら、付き合いの長い私には多額の慰謝料を請求されるかもしれなかった。
８年付き合っても結局私は都合のよい女だっただけで、バレたらあっさり私と会わなくなり、
電話もメールも無視しだしたので、しつこく連絡し続けたら、ストーカーで訴えるというメールが一本入った。
弱気でヘタレた当時の私は泣き寝入りしたのだ。


子供の養育費、学費に当てるつもりだった。


その後、それまで続けてきた本業のシンセサイザーのプレイヤーと講師の傍ら、風俗嬢として１０年。
風俗業界以外では、誰にも言わずに働いて来た。

息子は公立の進学高校に進み国立大学を四年、そのあと修士課程に進み、地元に戻って技術職に就いている。


私が情けない生活をしているのは当然知らない。
この事は一人で墓まで持っていくと決めている。
「進路、安いルートしか選ばせてあげられなくてごめんね。
あんたは真面目に頑張ってるよね。
母さんは好きなことしてフラフラ暮らしてるから、似なくて良かったね。」


息子はなんとなく兄に似ている。
理詰めで考える理数系。
現実主義の倹約家。
奇しくも仕事が同じ技術職。兄は公務員で息子は一般企業だけど。


文系寄りの感覚人間で、ピアノ講師だった母の薦めで4歳からピアノとエレクトーンを始め、
好きなことを好きな様にさせてもらい、音楽科を出してもらった私とは、
脳みその構造が違うらしい。