俺様オヤジの恩返し
「愛さん、まともな息子さんいるんだから、養ってもらえばいいじゃない?

私は子供いないかわりに親を養ってるけどさ、
風俗一本でやってて、愛さんみたいに50近くなっても売れるかどうか、体が続くのかどうか不安だよ。
40くらいから始めたんだよね?愛さんって。
私なんか30代後半から体がキツくてもうダメか、引退か、と思ったよ。
でも愛さんいるし、私も頑張れるかもって…。
でもなぁ。
親も老い先短そうだから、そのあとどうしようかなぁ。私、この仕事しか知らないからなぁ……」


今は他店に在籍している長年の顔なじみ、風俗歴20年のベテラン嬢、紫乃さんとたまに会うと雑談する。

風俗嬢同士で本名を明かすことはほとんど無い。
普通は個人情報は明かさないものだ。


「んー。私は本業を退職したらお一人様で細々と暮らすよ。
だから、いまどっちも続けているのは老後のため……って、
なんだか情けないねー」


「本業の方でいい出会いは無いの?
風俗客は私はもうコリゴリだわぁ。
お客さんと結婚できた人もいるけど、私は結局うまく行かなかった」


「お客さんはお客さんでしかないもんね。
本業の方で?風俗嬢だって隠して?

何年か前に、30代のシンセの生徒さんにご飯に誘われたり、なんかそんな雰囲気のお誘いあったんだけどね、
一応独身だけど、ずいぶん年下だったし……。
付き合えなかったわ。
私が同年代だと思ってたんだってよ?
どこ見てんのさ?ってね。
シワにたるみにほうれい線……。
白髪は染めて隠れても髪に潤いが無いよね。
メガネが合ってなかったのよきっと。

それにね、男の人を見る目が変な角度になっちゃった気がする。
風俗嬢なんて長くやるもんじゃないよね。

紫乃さんはまだ若いから。
30代だっけ?私はもう恋愛はないわ」


「いや、在籍年齢は36だけど、実年齢はもう41だよ?親だって70だし。
愛さんは一人の時間あるのに、出会う様な場所に行ったりしないんでしょ?」


「出会う様な場所?」


「飲みに行ったりさ。習い事とか」


「うーん……この仕事を隠して、って言うのが後から嫌なのよねー。
だからって言えないし。
それにね、飲み屋さんで出会いを求めるのは私はちょっと…。
だいたい、不特定多数を相手しながら誰かと恋愛なんて、私には出来そうにないわ」


「愛さんって一途?…かぁわいいー」


「一途になれる相手が居ればね……いなきゃその、かぁわいいのも発揮できないよ」





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