私と義弟とバレンタイン【短編】
ペラペラと誤魔化すように喋ると、もう子供じゃない彼は、今度は素直に騙されてくれる気になったらしい。
腑に落ちない顔のまま、一度廊下に出ると、大型の箱を持って戻ってきた。
「………って八つ橋じゃないじゃん!
あたしあれだけ八つ橋プレーン味って言ったのに!なんならメールでも再三言ったよね?!
ばか!?ばかなの健太!!!」
「うるせーな。
俺が食いたいのにしたの。どうせ一緒に食べんだから、俺が食いたいのを買ってくる」
「ふえぇぇ。
なによ宇治抹茶チョコってー!美味しそうだけどもー!
あたしは八つ橋がー!!!」
「買ってきただけいいだろ。
それに姉ちゃん、今日何の日か知らねーのかよ。だからモテナイんだよ」
「………え?」
「バレンタインだろ」
「…………逆チョコ?」
もしや、とそう口にすると義弟はぷいっとそっぽを向く。
「えー!小学校まではたしかに健太から貰ってたこともあったけど!うわー!あんた可愛いとこあんのね!」
うりゃうりゃ〜っと頭を撫でてあげると、健太は嫌そうに私の手を払う。
「子供扱いすんなってば」
「そんなこと言ったって、
私にとっては可愛い義弟だもんねー」
そう言って、もう一度ぽんぽんと頭を撫でる。
そう、いつまでも私にとっては『義弟』だ。
それ以下にも、それ以上にもなり得ない。
だから、その熱を孕む眼差しも、
本当はちゃんと八つ橋を買ってきてくれてるだろう袋の膨らみにも。
私はきちんと気付かないふりをしなければならないのだ。