私と義弟とバレンタイン【短編】
「ねえ、俺がバレンタインあげたのに
姉ちゃんからは何もないのかよ」
「あー、ごめんごめん。
あたしそういうの疎いからさ。今日バレンタインだって今知ったし」
「……ほんと姉ちゃんって女として終わってるよ」
「罵詈雑言、地味に傷付くからやめてもらえませんかね」
………いつも、こんな風に健太は私にひどく当たるのに。
いつから私は彼が、私を女として見てると気付いたのだろう。
お風呂上がりに目があったあの瞬間?
男友達を家に連れてきたあの日?
それとも、健太に抱きついたあの夜?
そのどれもがキッカケのようで、きっとそのどれでもない。
きっとこの子は、私が思うより遥か前から私を女として見ていた。
それがわかるくらい、彼の想いは私にずっと届いていた。
無視すると決めたのは私。
絆されないと決めたのも、私。
「ねえ、健太。
修学旅行でさ、なんか面白いことなかったの〜?」
宇治抹茶チョコの包みを開けながら問うと、義弟はじっとりと私を睨む。
「そのゲス顔やめろよ。何、期待してんだよ」
「何って、修学旅行と言えば決まってんじゃん。
告白とかされなかったのー?」
せっかくバレンタイン近くに行ってるんだから告白の一つや二つあってもいいでしょ、と笑うと、健太は大きくため息をつく。
「稚拙」
「わ、悪い!?」
しかし健太は少しだけ目を伏せて、
何かを考えているようだった。
(………え?)
もしかしたら、もしかしちゃってるのだろうか。
たしかに健太は義父似で、一見荒削りに見える顔だちはよく見ると端正で、人を惹きつける魅力がある。
そう思ってしまうのは、身内の欲目などではないはずだ。